富嶽36景

 先日再放送ではあったけれど葛飾北斎富嶽36景を放送していた。
 富嶽36景のうち最も有名なものの1つである凱風快晴という絵がある。富嶽36景にはほとんど地名が記入されているけれど凱風快晴には地名がなく、どこでこの絵を描いたかその場所を求め、ほぼ特定されているといわれる。富士山の大きさから富士山の麓に近い場所から描いたことはわかるけれど、場所を特定する根拠は果たしてなんなのだろうかと思っていたら、それは富士山の頂上の見え方だという。
 凱風快晴の富士山はデフォルメして描いているのに、頂上の見え方を根拠にするというのもななんだか説得力がなさそうに思っていたところ、びっくりしたのはカシミールという私も持っているソフトを使って富士山を描きその形から場所を特定するというのだ。カシミールは確かに国土地理院のデーターを元に描いているため正確な絵になるのだけれど、それとぴったり一致するというのだ。
 凱風快晴の富士山は、河口湖の近くにある三ツ峠山からカシミールで高度を2倍にして描いてみると頂上の形(ほぼ平ら)、富士山の裾野がぴったり一致してしまうのだ。

カシミールで描く


 偶然の一致かと思えないこともなかったけれど、さらに第二第三の事実を見せられてただ驚くばかりとなってしまった。
 もう一枚有名な絵がある。山下白雨。これも構図的に凱風快晴によく似ている。しかしよく見てみると頂上の形が微妙に違う(でこぼこしている)。構図に変化を持たせるためにちょっと変えてみただけだといえなくもないけれど、観光地の白糸の滝から見る富士山はカシミールで描くとこれまたぴったりと一致してしまうのだ。

カシミールで地上から描く


 しかももっと衝撃的なのは、イナズマを山の中腹に描いているため、目線は白糸の滝の上空から眺めていることになる。そうすると白糸の滝からは見えることのなかった、富士五湖の北側にある山並みが見えることになる。この山並みが山下白雨の中に描かれているのである。北斎は上空からしか見ることのできない景色を推定して描いているのだ。

白糸の滝上空から描く


 富嶽36景のなかで1枚妙な構図の富士山がある。甲州三嶌越である。ほかの絵はすべて近くでも遠くでも富士山全体を描いているのに、甲州三嶌越だけは大木によって分断されている。こうした構図の絵が1枚くらいあってもいいのではないかということもできるけれど、もっと隠れた事実があるというのだ。

 甲州三嶌という地名は今は残っていないけれど山中湖と御殿場の中間あたりに昔の地名としてあった。そこでこの付近からカシミールで同様にして絵を描いてみると、宝永噴火口がなだらかな富士稜線を狂わしているのだ。宝永の噴火は北斎の生まれる50年ほど前で、今よりもっと噴火口が大きかったかもしれない。

宝永噴火口が稜線の形を崩す

 この噴火口を隠すためわざわざ大木を前面に配してなだらかな稜線が続いているように見せたというのだ。


NHK 日曜美術館 「富嶽36景 北斎が見た富士を探せ」からアレンジしました)


カシミールを使って凱風快晴もどきを描いてみた。